日本初のプロ・オブローダー「ヨッキれん」の講演を聞いてきた

「オブローダー」とは、「obsolete(廃れた)+「road」+「-er」から来た造語で、廃道探索などを好む人のこと。「ヨッキれん」こと平沼義之氏は「山さ行がねが」というサイトの管理人で、あちこちの廃道・旧道・廃線跡などを探索する著名なオブローダー。近年は廃道を中心としたDVD・著作で生計を立てている、プロ・オブローダーでもある。

この「山さ行がねが」というサイトの読み応えは、ヘタに読み始めるとWikipedia以上に夜が明けてしまうというレベル。最近はテレビ番組やイベントへの露出もあるものの、中の人を生で見られる機会はなかろうということで、この立正大学環境科学研究所講演会・「ヨッキれん流 山さ行がねがの裏側見せます。交通調査ツールの活用方法」を聞きに行ってきた。

会場は立正大学熊谷キャンパス。どこだよ!?と調べて、JR高崎線の熊谷駅か、東武東上線の森林公園駅から国際十王バスで行くのがよいことを知り、帰りは新幹線に乗る都合上、熊谷駅に戻ることになるから、往路は東武を選択。

池袋から急行に揺られること約1時間、森林公園駅に到着。熊谷って遠いのね……。
東武東上線森林公園駅に到着

通学路線なので電車とバスの接続はバッチリ。しかしこの日は台風11号接近のため急行の到着が2分遅れて、ギリギリに。あやうし。
森林公園駅からバスに乗車

バスで約20分走ると終点、立正大学熊谷キャンパス。講演会場はアカデミックキューブというオサレな建物の1階にある教室。
立正大学熊谷キャンパスのアカデミックキューブ

地学ナントカ講義の授業であると同時に一般開放している講義でもあるということで、300名以上入る教室が6割ぐらいは埋まっていたみたい。準備中の平沼氏を見て「お、生ヨッキれん」と勝手にテンションを上げる。
講演準備中のヨッキれん

以前は秋田に住みつつのオブローダー活動をしていたが、日野市に引っ越してオブローダーとして生計を立てることにしたのだそうで。
ヨッキれん自己紹介

まずは自己紹介や、廃道の4つの魅力「冒険」「美景」「歴史」「技術」などについて軽く紹介。そして、テーマに沿った「ヨッキれんの調べ方」についての話へ。まずは「地図」。

普段、平沼氏は不便&限界を感じるため、あまりネットでは地図を見ない。今回は講演にあたり、Googleマップ・Yahoo!マップ・マピオン・地理院地図・スーパーマップル・プロアトラスSV6という6大電子地図を使ってみて、その特徴を挙げてくれた。広く使われているGoogleマップは、県道の色分けなどがなく、山間部だとあるべき道を描いていないことがあるので不便。それが、マピオンなら大字まで表示されるので、わりとマシになる。これがプロアトラスSV6になると、大字ごとの色分けまでしてある。大字というのは江戸ごろの村境だったりして、古い地形や古い道路の情報が必要なオブローダーにとってはとても有益。

続いて、「旧版地形図の面白さ」。読み解くポイントは、現在との違い。また、旧版同士でも図式(凡例)の違いで表現が異なる点に注意が必要。素人にありがちなのが「太く描かれている道があるときから点線になった、きっと廃れてしまったんだろう」という誤読で、昭和30年代までは国道・県道はそれぞれ太めの幅で描かれているが、実際の道幅とは無関係で道幅については別途図式が用意されているので、点線になったのは単に国道指定・県道指定が外れただけというケースがある。

図式で特に重要なのは大正6年図式(大六式)と明治42年図式。国道・県道の下に里道(りどう)として達路、聯路、間路がある。さらに、道路幅や、荷車の通行不能を表現する記号が存在した。

道路橋表現もいろいろある。平成14年式だと道路に応じて種類が1つだが、大六式だと9種類ある。凡例にあるのは垸工橋(石などを積み上げて作ったもの)、鉄橋、木橋の3つだが、ほかに「鉄脚または垸工脚を有する木橋」「仮橋」「脆弱なる橋」「舟橋」「徒橋」「桟橋」の6種類があった。いまの地形図だと、見ても何製の橋か分からないが、旧版ならわかる。また、橋はかかっていないが車輌を渡し得る「車輌渉場」の記号も。

「旧版地形図の閲覧と入手方法」は平沼氏の場合、閲覧なら国土地理院関東地方測量部閲覧室、入手は国立国会図書館の遠隔複写サービスを用いる。県立図書館へ行けば、だいたい県内の地形図は網羅している。コピーは1枚10円で、全体の1/2まで。国会図書館は全国の地形図をほぼ網羅しているが、閲覧手続きが少し面倒。コピーは1枚約100円でサイズはA2、現地に行かなくても遠隔複写サービスで送ってもらえる。閲覧室も全国を網羅していて、備え付けのPCで自由に見れるが、入手は謄本で1枚500円。サイズは柾判(460mm×560mm・元と同じサイズ)。なので、国会図書館の遠隔複写サービスオススメ。

使い方は、「1.国会図書館の登録利用者になる」→「2.NDL-OPCAで複写したい資料を検索する」→「3.必要事項を入手して遠隔複写を依頼」→「4.1週間程度でコピーが送られてくるので同梱の振込票で支払う」。どんな地形図があるのかは国土地理院の2万5千分の1、5万分1地形図、20万分1地勢図図歴のページを見るとわかる。遠隔複写サービス利用時、全角16文字しか入力できない備考欄に「A2白黒等倍、外周部の縮尺カット可」と書いておくとわざわざ問い合わせを受けなくてすむ。

最後に、ヨッキれんおすすめサイト集。
トンネルのデータ:隧道データベース日本全国トンネルリスト
決定の裏側:国会議事録検索帝国議会会議録検索システム
昔の観光名所の景色:アンティーク絵葉書専門店 ポケットブックス戦前土木絵葉書ライブラリー
古い地誌を無料で:国立国会図書館 近代デジタルライブラリー
 →都道府県名・市町村名はもちろん、郡名・旧国名が有用。定番タイトルは「案内」「名所」なので地名と一緒に入れると吉
昔の空中写真:国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス
手軽に標高グラフ:ルートラボ
地上を自在に水没させたい:どこでもダム
300円で「角川日本地名大辞典」全巻をゲットしたい:Jlogos
 →月額315円(税込)で使える

神戸大学附属図書館デジタルアーカイブ 新聞記事文庫
国立公文書館アジア歴史資料センター
国土地理院基準点成果等閲覧サービス
「木簡画像データベース 木簡字典」「電子くずし字典データベース」連携検索
インターネットアーカイブ
 →中止されてしまったダム事業の広報サイト巡り
月刊土木技術バックナンバー (定期購読の特典にするため消滅してしまった模様)
道路の改良 バックナンバー

さらに時間がちょっとだけ残って「あとで映像を見てわかるようにスライドを流しておきます」と駆け足で「旧版地形図を立体的地図にする」を。
必要なもの:旧版地形図、カシミール3D、標高データ
まずは地形図をスキャンしてbmpに。続いてカシミール3Dで座標セッティング・キャリブレーション、標高データと組み合わせる。

「旧版地形図を手に入れるもっと手軽な方法」
今昔マップ」だと、日本全国のうちの1割ぐらいは旧版地形図を無料で見られる

最後に質疑応答。簡潔にまとめているので元の口調とは異なる。
Q:「立入禁止」となっている場合に入るか入らないかの基準
A:自分の中でお詫びできる基準があるなら入るが、通じなさそうだと入らない。たとえば自衛隊の人たちが出てきたりするところは入らない。「すいません、間違えました」で済むとか、地主の人が「タケノコ泥棒!」みたいに出てくるというレベルなら入る。

Q:廃道を巡るにあたって、管理者の許可を取ったことは?
A:基本的にはない。申し訳ないとは思っている。
アシスタントとして来ていた石井あつこ(トリ)さんから、DVDや番組収録だとディレクターが許可を取っているのを見たことがある、雑誌などのメディアだと見え方によって取ってたりするところもある。ただ、ヨッキれんはそもそも「立入禁止」を気にするような男ではない。
会場に笑いが起きる、という感じ。

7月16日は著書「国道?酷道!?日本の道路120万キロ大研究」発売日ということで、会場で販売が。そのため、サイン会状態になり、バスの時間があった私は雑談中の平沼氏の姿を確認して会場をあとにしたのであった……。
講演終了後のヨッキれん

このあと、熊谷駅から「あさま」に乗ったらすごく混んでいて、久々に自由席のデッキに立つ羽目になったという。